谷田さん、私が最初に貴女に会ったのがいつかは、もう思い出せません。
”知っている人”から”近しい人”になったのは、2014年。
当時、私が日本コーチ協会神奈川チャプターで開催していたコーチング解体新書に、ゲストコーチとしてお越しいただいたときでした。
(コーチング解体新書は、ゲストコーチに15-20分のコーチングをしてもらい、そのあと何をして何が起きたかを解説していくコーチング学習のセミナーです)
考えてみれば不思議な縁です。
その少し前の神奈川チャプターの何かのイベントの懇親会で、私は吉田典生さんにゲストコーチをお願いしました。
典生さんと日程調整をして、典生さんは9月に出ていただけることになって、他にどなたかお奨めのコーチはいないか訊いたところ、同じ会場の少し離れた場所に座ってらした谷田さんを奨められたのです。
ごめんなさい。
あの頃の私は、谷田さんがどんなコーチングをするコーチなのか、よく知りませんでした。
典生さんが言うなら間違いないだろうと思いつつ、J-COPというICFグローバルと直接つながったコーチの学習機会を運営しているベテランコーチだということしか知りませんでした。
ホームページもブログもない、SNS もほとんど発信しない。でもコーチ関係の集まりでお見掛けするといつもベテランコーチ陣の輪の中にいる強い雰囲気の人、というのが、当時の私の谷田さんの印象でした。
でもね、谷田さん。谷田さんがコーチングを目の前でやってくれた、谷田さんの回のコーチング解体新書は、私にとって忘れられない、今でいうなら「神回」になりました。
特別なツールも、あっと驚く飛び道具もない。コーチングの基本:耳を傾け、問いかけ、フィードバックをする、で構成されたセッション。
でも、シンプルなスキルをシンプルに磨いてシンプルに使うことが、こんなにも効果のあるコーチングになるのかと、とても驚くとともに、あの時私は、コーチングというものの未来に希望を持ちました。
そして、コーチングが始まった瞬間、まるで縁側にちょこんと座っている猫のように、いつものオーラがすっと消えたことが忘れられません。
「コーチングが始まった瞬間にオーラが消えて、ただのおばさんになったように感じたのですが?」
という、今考えても失礼極まりない私の質問に、貴女は、
「コーチにオーラは必要ありません」
と言い切りましたね。
数年後、この話をしたときに、貴女は「私、そんなこと言った?」と言った後、
「コーチが何かをやってくれるんじゃない。やるクライアントがすごいんだ」と、
だから当たり前じゃない?と、なぜ私がそんなにもこのことを記憶にとどめているのか、その方が不思議でならないという感じでしたね。
コーチング解体新書の後の茶話会でゲストコーチをお引き受けいただいたお礼を伝えると
「楽しかったわよ」
と笑って仰ってくださいましたね。
当時、いろいろなコーチにゲスト依頼の声をかけても断られることが多く、ゲストコーチ確保に苦戦していることを話すと、
「…あそこに立って、詩乃ちゃんもやってみなさいよ」
と笑ってらっしゃいましたね。
今、この言葉と「楽しかった」の両方の意味が、私にも少しだけわかるようになりました。
谷田さん、2015年のICF Japan のイベント、コーチング・カンファレンスでは、助けていただいてありがとうございました。
同じICF Japan の運営委員ではありましたが、谷田さんはイベントチームではなく、それまであまり一緒に仕事をしたことはなかったように思います。
でもあのとき、どうしてもベテランコーチの力が必要でした。
急で無理なお願いにも関わらず貴女は引き受けてくださり、会場である東京国際フォーラムの下見までしてくださいました。
あのイベントは私にとって、結果として今につながるたくさんの人との出会いと縁をいただいた場となりました。
谷田さんと親しくなったのはこのイベントであり、その意味では谷田さんとの縁も、このイベントがつないでくれた縁のひとつです。
あれから、ICF (国際コーチ連盟)と ICF コーチの普及を目指す貴女のお手伝いをするようになり、その中で貴女の ICF やコーチングにかける想いを教えていただきました。
今の私の軸の一つは、間違いなく、あのときに貴女に教わったことです。
CCC(コアコンピテンシーキャンプ:MBCC プログラムの前身のコーチング道場みたいなトレーニングプログラム)の誘いは徹底スルーした私ですが、谷田さん、MBCC(マインドフルネス・ベースド・コーチ・キャンプ) の誘いは、CCC とは比べ物にならないほど強かったです。
人生はわからないものです。
貴女の強い強い誘いに、「マインドフルわからないし・・・これでわからなかったらきっぱりマインドフルネスはあきらめよう」と思って、2016年2月のMBCCオープニングセミナーに参加して、結果、MBCC コミュニティと共に生きる今があります。
しかも今思い返してみると、(当時はどちらも赤の他人でしたが)最初の謎のペアワークの相手は、数年後 貴女がMBCCで「物わかりのいいおばさんやってるんじゃないわよ」と言った ちよちゃん、最後のペアワークは同じく半年後のMBCC で「誰もひでしゃんに普通のコーチングなんて求めてないわよ」と言った ひでしゃんでした。
あのとき、初対面の人ばかりで緊張しまくっていた私に、「これからその人たちと親友になるよ」と教えてあげたいです。
谷田さん、そうやって貴女が誘ってくださったMBCC で、私のコーチ人生が変わりました。
MBCC に参加する前、ずっと人前でコーチングはしたくなかったし、正直、どうやったらコーチングが上達するのか、何を目指せばよいのか、皆目見当がついていませんでした。
Doing と Being が大事だと言っても、「よき社会人たれ」って、コーチじゃなくても誰でもそうだよね、と、ずっと思っていました。
ずっとコーチングをすることに自信がなかった私に、あるときのコーチングエクササイズで貴女がしたフィードバックは忘れられません。
「そんな『くそつまんない』コーチングしてるからうまくいかないのよ」
「ねぇ、その質問、本当に訊きたくて質問した?」
「詩乃ちゃんにお金を払ってコーチングを受けようと思う人は、そんな当たり前のことを訊かれたいわけじゃないし、そんなありきたりなセッションを受けたいわけじゃないでしょ」
谷田さん、貴女はこのフィードバックをさっぱり覚えていないそうですね。
貴女にとっては特別なフィードバックではなく、ごく普通のフィードバックだったのですね。
あと、
「詩乃ちゃん、もっと馬鹿になればいいと思うんだけどな」
「クライアントの話を聴いて、あれかも、これかもっていろんなことを考えられるから考えちゃうんだろうけど、相手の話をそのまま受け取ればいいの。意味づけはクライアントが自分ですることなの」
ともよく言われましたね。
本当に適切なコメントでした。
一方で、貴女はやっぱりとてもよく見守ってくださるコーチでした。
コーチングエクササイズで私がコーチをしていたとき、オブザーバーが
「詩乃さんはよくいろんなことに気づいてフィードバックしますが、偶然のタイミングがちょうど良いっていいですね」
的なことを言ったとき、スーパーバイザーの貴女は
「詩乃ちゃんは思ったことをポンポン口から出しているように見えるけど、実はけっこう考えてタイミングとか伝え方とか内容を見計らってると思うよ」
と言ってくださいましたね。
とても嬉しかった感覚を、今でも覚えています。
谷田さん、昨年はMBCCライブ!をコ・ファシリテートさせていただきましたね。
谷田さんはこういうことを考えてこうやってプログラムを組み立てるのか、と、準備段階から当日まで、たくさんの勉強をさせていただきました。
あのときに作っていただいたタイムテーブルのファイルは、私の宝物です。
谷田さん、EQ のアセスメントであるSEIを受けた後のセッションもしてくださいましたね。
「あぁ、詩乃ちゃん、今まで相手の気持ちを考えすぎて疲れちゃったんだ」
という、否定でも、EQを伸ばすことを強制どころか促すのでもなく、ただ共感を示してくださった貴女の言葉は忘れられません。
谷田さん、MBCC では、私達、一撃師弟と言われていましたね。谷田さんは私の一撃師匠、私は谷田さんの一撃弟子でした。
(註:谷田さんのフィードバックは一撃で本質を激しく突き、殻や思い込みを砕くきっかけになる)
師匠にはまだまだとても追いつきませんが、いつか貴女のように相手の気づきと内省を深められる端的でキレと愛のあるフィードバックができるようになります。
・・・「それって、結局どういう状態?具体的に言ってみて?」と言われそうですね。
谷田さん、闘病されるようになってからも、貴女はずっと貴女でした。
いろいろな専門家と話し、その上で自分で生き方と治療法を決めていらっしゃいました。
昨年末に谷田さん自身のコーチングプログラムであるCAT を始めた時、私が、インフルエンザが流行っている中の外出は控えてほしい、集合研修をしなくても方法はあるじゃないかと言ったら、
「これがあれば大丈夫」
と、加湿器を抱えていらっしゃいましたね。
自分の講座で、直接会って話して伝えたいことがあるという貴女の強い意志に、それ以上のことは言えませんでした。
CAT もまた開催しよう、オンライン展開しようと話していましたね。。。
谷田さん、貴女は学ぶことに、とてもとても熱心でした。
我々MBCC 一期生の有志が、毎週木曜23時から英語を学ぶ英語部を開催していたとき、仕事でもないのに、ほぼ毎週参加してくださいました。
英語部で英語でコア・コンピテンシーを学ぶようになり、それが昨日、貴女が旅立った日に始まった、新コア・コンピテンシーモデルを探究する山田ゼミにつながったように思っています。
貴女が大切にしていたコア・コンピテンシーを、貴女が大切にしてくれた私達で学び続けていきます。
谷田さん、貴女はMBCC修了生向けのオンラインのコーチングエクササイズにも、本当にたくさん参加してくださいました。
本コースではあまり貴女と話せなかったけれど、このオンライントレーニングで貴女からフィードバックを受けられたという受講生もいらっしゃいます。
いつでも決してあきらめず手を抜かず妥協せずしかし攻撃せず、の貴女のフィードバックを忘れません。
谷田さん、貴女は私のメンターコーチでもありました。
セッションについて相談すると、
「そんな(細かい)ことはどうでもいいの。クライアントはどこへ向かいたいの? 何が大事なの?」
等々、いつも私に見えていなかったものを見せてくださいました。
ありがたいことに、私にとっての優れたコーチ、すごいコーチ、尊敬するコーチはたくさんいます。
しかし、「こんなコーチングがしたい」が最も近かったのが、谷田さんのコーチングでした。
谷田さん、貴女はいつか、
「私、人間は今回が最終回だと思う」
と仰ってらっしゃいましたね。
次は地球なのか違う星なのか、もっと違う次元に行かれるのかわかりませんが、どこにいっても、貴女はずっと学び進んでいかれるんでしょうね。
コーチングについてもいつも仰ってましたね。
「気づきましたー」じゃ何も変わらない。行動しなさい。と。
谷田さん、貴女が教えてくれたこと、残してくれたこと、育んでくださったこと。
そのまま私の中にしまって終わりにしてはいけないと、それは貴女の望むことではないと思っています。
谷田さん、貴女なら言うでしょう。
「悲しむよりも、前に進んでほしい。行動してほしい」と。
「行動することでしか世界は変わらない」と。
谷田さん、月曜日に貴女の急変の知らせを聞いてから、我々は、貴女と共に作ってきたMBCC の一切を決して止めないと、恐らくリーダーズ全員が心の中で決めました。
月曜以来ずっと、嘗てないスピードでいろんなことが動いており、メッセンジャーの新着音が鳴り止みません。
谷田さん、貴女は一歩ずつでも半歩ずつでも学び続け、前に進む人でした。
だから私たちも歩み続けます。
谷田さん、貴女に出会えたこと、貴女と共に過ごせたことに感謝します。
ありがとうございました。
関口 詩乃