こんにちは。
薬情報コンサルタント・薬剤師の関口詩乃です。
昨日、大きなショックを受けるニュースが飛び込んできました。
ハーボニー配合錠のニセモノの薬が奈良県内の薬局で発見された、というニュースです。
「問題なのはわかるけど、なぜ?」という質問をいただいたのでご説明します。
偽造品が入ったボトルは正規品で、流通過程で中身がすり替えられていたとみられ、全国に出回っている可能性がある
(毎日新聞)
というものです。(ブログ内の写真は、NHKニュースサイトからお借りしました)
偽造品が見つかった、しかも高い薬の偽造品が見つかったこと自体が衝撃ですが、医薬品の安全を考えると、今回の事件は恐ろしいことだと思っています。
2点に分けてご説明しますね。
- 薬局で見つかったこと
- 患者の訴えで発覚したこと
1. 薬局で見つかったこと
これまで、日本で「ニセモノの薬(偽造薬)」が見つかるとしたら、日本の法規制の外にある薬でした。
個人で海外で作られ、売られている薬を買った場合だったり、そもそも治療を目的としない危険ドラッグなどです。
しかし、今回は、日本の通常の流通に乗った薬がニセモノが混ざっていたのです。
入手の仕方が悪いから、そもそも規制の対象外だから、という
「買った人の選択や行動に問題があった」
ではなく、薬局が普通の手順で普通に買った薬に偽物が混じっていたということです。
流通の間にすりかえられた可能性があるということですが、薬は製造も流通も保管も、全て法律で厳しく規制されています。
日本の現在の法規制やシステムでは、ニセモノが紛れ込むことが防げなかったのです。
「買ったものが偽物や不良品かもしれない」という不安を、常に抱えるのは大きな負担であり不利益です。
以前、中国に行ったとき、駐在中の友達とスーパーマーケットに行ったときのことを思い出しました。
日本でスーパーに行ってペットボトルのジュースを買うとき、手に取った商品をじっくり検品する人はいません。
しかし、「ペットボトルのふたに、すでに開けた形跡はないか?」「このふたは回せばちゃんと開くか?」「中に異物が入っていたり変色したりしていないか?」諸々のことをチェックしてから買い物かごに商品を入れていました。
この国の薬を、そんな状態にしてはいけない! そう思います。
高額薬剤?現金問屋?卸不要論?法規制強化と廃棄増加?など、いろいろな懸念が脳内をぐるぐるしていますが、大変なことが起きたのだと感じています。
2. 患者の訴えで発覚したこと
もう一つは、薬局で薬剤師が発見したのではなく、患者さんが発見したことです。
薬局や薬剤師のチェック機能の問題だ!と言ってしまうのは簡単ですが、何も解決しません。
もちろん、薬剤師のチェック機能を上げることは大事です。
しかし、ハーボニーという薬は、日本でも珍しい「ボトルごと」処方されることがある薬です。
日本の錠剤の多く(ほとんど、と言ってもいいです)は、PTPシートというプラスティックの薬が見える包装か、薬局で1回分ずつ分包された状態で患者さんに渡されます。
つまり、薬剤師が錠剤を実際に目にしてから患者さんに渡されます。
一方、ハーボニーは4週間分の薬(28錠)が1ボトルになっているので、患者さんにボトルごと渡すことを前提に作られているのです。
今回の事件は、「ボトルが本物で封がしてあれば、中身の品質は担保されている」という前提を突かれています。
正規品のボトルの中身をすり替えられた以上、「なんで気づかなかったんだ!」と言っているだけでは再発を防げません。
・ボトルで渡す薬でも薬局で一度開封して中身をチェックしてから渡すように通達するのか、
・ボトルで患者さんに渡すのをやめるのか、
・グリコ森永事件(古いな・・・)でポッキーがしばらくフィルム包装されていたように包装の工夫をすすめるのか、
薬の監査方法と前提となる概念が問われているのです。
安全は大事です。本当に大事です。
しかしオーバースペックは医療費の増大と医療業界の疲弊に直結します。
今回の事件、やっぱり大変なことが起きたと思います。