緊急避妊薬が薬局で買えるようになった価値

大変ご無沙汰しております。関口詩乃です。

最近はもっぱらnoteへの投稿MBCC通信での発信が増えていて、気づけば自身のサイトの投稿が1年ぶりになってしまいました。

noteと自サイトの棲み分けが相変わらずさっぱりわかりませんが、何かしらの発信は続けていきますので、よろしくお願いします。

 

2026年2月2日(月)  緊急避妊薬(アフターピル)が、医師の診療を受けずに、薬局で購入できるようになりました。

(アイキャッチ画像は第一三共ヘルスケア様のHPよりお借りしました)

 

ホルモン剤による緊急避妊法(性交から72時間以内に服用)は1960年代から行われていたけれど、ノルレボの成分(レボノルゲストレル)による緊急避妊法は、WHOが実施した臨床試験で効果と安全性が示された(WHO1998, WHO2002)ため、世界中で用いられている方法です。

半分の量を2回飲むタイプのノルレボが日本で承認された(産婦人科等を受診して処方してもらう医療用医薬品として)のが2011年2月、1.5mgの1回飲めばよいタイプが承認されたのが2015年12月。

世界に目を向けると、ノルレボ錠(0.75mg錠の2回投与)の国際誕生日は1999年4月16日(仏)。翌年2000年3月27日にEUでも相互承認。

今回と同じ、1.5mg錠の1回投与タイプは、WHOの上記試験に基づき、EUで2003年4月、仏で2004年3月に承認されています。
(参考:ノルレボ錠インタビューフォーム)

 

WHOの必須医薬品に指定されている薬であり、10年遅れでの承認を早いとみるか遅いとみるかは評価が分かれるところだとは思いますが、何はともあれ、医療用医薬品として2015年に承認されてから約10年でOTC(薬局で買える薬、一般用医薬品)となったのは、快挙だ!と私は思います。

 

●薬局でノルレボが入手できる価値

ノルレボ錠の登場当時から、薬局での販売は議論されていた記憶があります。
(薬剤師が説明や対応できないから…ということもOTC化を見送られた理由の一つでした)

1999年の低用量ピル解禁の経緯を薬剤師として経験していた私は「どうせ…」というあきらめの気持ちがかなりあったことも事実なのですが、

「違う、これは絶対に(診療なしで)薬局で入手できるようにならなきゃいけない薬だ」と強く思うきっかけになったのが、2018年の北海道薬学大会での、堀美智子先生の講演と、その後のグループディスカッションでした。

 

それまでの私は「多少不便でも診療を受ければ入手可能だし、オンライン診療(2015年くらいから実質解禁された)もあるし、どこで処方・入手できるかネットで検索もできる時代だし」くらいに思っていました。

しかし、

(1) 望まない妊娠、特に若い世代の望まない妊娠は当人や周囲のその後の人生を大きく変えてしまう可能性が高いこと

(2) 未成年者が親を頼らずに医療につながる難しさ

(3) 中絶の負担の大きさ

これらを考えた時、それまでの私の考えは「安定した生活を自ら営める大人の発想に過ぎない」ということに気づきました。

このときのグループディスカッションでも、副作用や身体への影響から、未成年者への保護者を伴わない投与などを心配する声があったことも覚えています。

製薬企業で副作用担当を10年以上やった私ですが、だからこそ敢えて言葉にする必要があると感じました。

「副作用の心配はもっともだけれど、副作用よりもその後の人生の方が大事なんじゃないのか?」と。

もちろん、副作用を回避することは大事です。でも、重大な副作用(死亡や後遺症、入院など)が設定されていない薬剤、言い換えれば副作用が起きたとしても一過性で済むなら、その後の人生の方がはるかに大事じゃないのか?と思った覚えがあります。

これらの理由をもう少し説明させてください。

 

(1) 望まない妊娠、特に若い世代の望まない妊娠は当人や周囲のその後の人生を大きく変えてしまう可能性が高いこと

つい先日も、自宅で出産した女性が死体遺棄容疑で逮捕されるという事件がありました。この女性(容疑者とは決して表現したくない)、24歳です。「予期しない妊娠で周囲に相談できなかった」というコメントとともに、赤ちゃんポストの熊本の慈恵病院が相談のやり取りをしていた事実とともに抗議しています。

自宅で一人で出産したい、とこの女性が思っていたとは思えません。

予期しない妊娠だったとしても、産むのか中絶するのか産んで里子に出すのか、産むなら検診を受けて安全に、というのは当たり前の権利です。

でも、それが出来なかった。

 

日本は、若い人の妊娠に対して選択肢の少ない、非常に厳しい国だと思います。

例えば高校生が妊娠した場合、卒業自体が難しくなることも多いです。

大学生が妊娠した場合、新卒一括採用の日本で、以後、キャリアを築くことはいきなり難易度が上がります。

経済基盤の弱い若い女性が妊娠した場合、その後の生活を成り立たせることの難易度も高いです。

中絶は相手男性の同意署名が必要で、里親や養子縁組制度も非常にマイナー。

そんな中で生活基盤を持たない若い女性が妊娠し、周囲に相談できなかったら…医療の助けも借りられずに自宅出産、下手すれば母子ともに最悪の結果を迎えることも考えられます。

 

でも、もし望まない妊娠を女性自身が防ぐことができたら。

これらの女性も数年後、幸せな家庭をつくり、幸せな出産・子育てができるかもしれないんです。

 

ただ、大人には当たり前の今回の「緊急避妊薬が薬局で入手できる」という情報も、望まない妊娠をする可能性がある若い人に届かなければ、薬がないのと一緒です。

彼女たちに情報を届けること、その一つの手段が教育であることを、もっと考えていかねばならないと思います。

 

(2) 未成年者が親を頼らずに医療につながる難しさ

まず、私が以前思っていた「オンライン診療オンライン処方もあるし…」は、
・クレジットカードを持ち
・情報を検索して判断でき
・誰の許可も得ずに自由に行動できて(保護者の承諾を求められることもなく)
・ある程度自由にお金を使える
人間の発想です。

緊急避妊薬は性交から72時間以内、できるだけ早く服用することが求められます。

クレジットカードや銀行口座を持たない未成年が、この時間内に情報にたどり着いて、オンライン受診して支払いをしノルレボを入手できるのか?という疑問があります。

保護者(親)に相談することを躊躇する(特に思春期)人は、一般家庭であっても多いと思いますし、保護者がいない、名目上の保護者はいるが相談できる状況ではない、そんな未成年もいます。

そもそも親から直接、あるいは親が絡んだ性的虐待やレイプの可能性もあります。

緊急避妊薬OTC化の際、未成年に対し保護者の同意を不要とした判断は正しいと思う所以です。

 

私は伝聞ではなく実際にある女子高生から「今の彼氏は10歳以上年上の社会人だけど『アフターピル持ってるから大丈夫』って言ってくれるんだよね」という話を聞いたことがあります。

全然大丈夫じゃない話だと私は思います。

処方薬でノルレボが存在したつい数年前の話なので、その「彼氏」が言うアフターピルは恐らく正規流通のものではなく、個人輸入か他のピル(ホルモン剤)の流用あるいはそれも輸入品で、成分や効果が疑わしいことを伝えたのですが、高校生の彼女が自分の性と生殖に関する権利を行使する、あるいは自身でアフターピルを入手する難しさを考えたとき、闇の深い話だと思わずにはいれられませんでした。

だからこそ、「アフターピル(緊急避妊薬)が薬局で入手できる」という話はもっと広まってほしいですし、同時に性と生殖に関する健康は、その人自身が持ち行使する権利だ」ということも広まってほしいと願います。

 

(3) 中絶の負担の大きさ

幸せな結果は語られますが、そうでない結果は語られません。

最初から中絶するつもりで妊娠する人はいません。

日本は中絶が比較的簡単な国だと言われます。経済的理由が認められるから、他国のような審査等のプロセスがないから、宗教的に禁止されないから、などの理由が挙げられます。

一方で、前述しましたが相手男性の同意が原則必要で、費用が高額、経口中絶薬は2023年にようやく導入で、WHOが推奨しない掻把法が未だに一定割合で使われている、などの難しさもあります。

そんな中で妊娠を人工的に終わらせることの身体的負担もありますし、宿った生命を終わらせる決定をほかならぬ母体がすることの精神的負担も相当なものです。

ピル使用率2.9%(2019年国連統計)の日本で、性交後に出産を望まない場合には、妊娠していないことを祈るか中絶しか選択肢がない、というのはあまりにも過酷です。緊急避妊薬はこの過酷な状況を緩和させるものだと認識しています。

※緊急避妊薬は流産させたり中絶させる薬ではありません。あくまで妊娠しないようにする薬です

 

約30年前の低用量ピル解禁の議論の時にも、2007年の赤ちゃんポスト設置の時にも、今回の緊急避妊薬でも、「無防備・無責任なセックスが増える」という議論がありましたが、そうでないことは証明されています
(英国での緊急避妊薬のアクセス改善(薬局販売など)後も性的活動の頻度、リスク行動、通常避妊法の使用に有意な悪影響は認められなかった)

だいたいそれを言うなら、女性を妊娠させたと知ったら連絡を絶つ男性や、養育費を払わない男性は生命の誕生や育児を放棄しているじゃないか、と言いたいです。女性にだけ妊娠・出産・育児の責任を負わせた結果が今の日本の状況な気がして仕方ありません。

 

●なぜ、OTCとして発売された今、この記事を書いたのか?

緊急避妊薬が診察や処方箋なしで入手できるようになった日は、1999年の低用量ピル解禁のとき「バイアグラの件がなかったらピルは承認されなかったんじゃないの?」と思うほど軽んじられている印象だった女性の妊娠に関する自己決定権が、また一歩前進したとも言える日だと思います。

 

一方で日本には、まだまだ考えなければいけないことがあります。

前述したように中絶に男性側の署名が必要なことや、世界では中絶薬が広がっているのに日本にはまだWHOが推奨しない掻把法が残っていること。

ノルレボも薬剤師の目の前での服用が必要となっており、現段階での理由も必要性もわかるけれど、それらの必要性が解決される日が来て薬剤師の目の前での服用が不要になる、そんな社会が来てほしいです。

また、今はまだ一定基準を満たした薬局でしかノルレボは買えません。全ての薬局ではないのです。若い人が入りやすいドラッグストアでの販売(全薬剤師が対応できる社会)、あるいは「何かあったらあの薬局で相談できる」という認識の共有・アクセスしやすさが当たり前の社会になってほしいとも思います。

 

これらを実現していくために、いろいろな立場の人への想像力と連携が私たちに求められている、そんな気がします。

大事な一歩をまたひとつ踏み出したからこそ、次の一歩にも期待を持てる。

そんな確信から、この話を書きました。

長文を読んでくださりありがとうございます。

 

そして、一人でも多くの妊娠が可能な年齢の女性、必要な方に「緊急避妊薬が薬局で買えるよ」という話が届きますように。

●ノルレボ取扱店舗⇒https://map2.daiichisankyo-hc.co.jp/?_gl=1*1186kql*_gcl_au*MjEyNTUxNDU4OC4xNzcwMzUwOTQw

●厚生労働省の緊急避妊薬の販売が可能な薬局等の一覧⇒https://www.mhlw.go.jp/stf/kinnkyuuhininnyaku_00005.html?utm_source=chatgpt.com

 

 

 

 

 

 

 

 

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